深く、深く、沈んでいく感覚は海のそれによく似ている。
 似ているだけで、全く違う場所。
 光の気配は微塵も無いのに、水の暗い青色が解ること、自分の身体が見えることを不思議に思った。
 深く、深く、沈んでいく。
 拒絶するような冷たさが、ここはお前の居場所じゃないと静かに囁く。


 ―――俺は、どうして。


 疑問は言葉になる前に泡の如く弾けて消えて、残滓は視線の先を伝うように上へ上へと上がっていく。
 思わず伸ばした指先は、虚しく水を掻くばかりで。


    知っている。知っていた。
 ―――だからきっと、言葉には出来ない。


 見渡す限りの暗い青に、命の気配は微塵も無い。
 伸ばした手は行くあても無く水を掴んで、開いた口から紡ごうとした何かの代わりに泡が漏れる。
 "何か"を言おうとした。それが何なのかは分からない。
 "何故"、言おうとしたのかは知っていた。それを表す言葉を知らないだけで。


 選ばなければいけない、と頭の中で誰かが囁く。
 強い心を宿したその声の持ち主を知っていたような気がしたけれど、思い出すことは出来なかった。


 ―――そうだ。俺は、選ばなくちゃいけない。
 ―――こんなところで、眠ってる、場合じゃない。


 光が、弾ける音を聴いた。
 天に瞬く星達の、呼吸のような音が、聴こえた。
 暗闇に浸るばかりだった狭い狭い海に命の息吹が溢れて澄み渡り、どこからか鼓動の音が一つ響き渡る。
 形の無い何かに引き上げられる感覚は、強く強く呼ぶように。
 水面の向こうに溢れる光が瞳を掠めて、開いた口から泡が零れる。
 そして其処にある筈の何かに、手を伸ばして、伸ばして、漸く気づく。




 もう、選んでいたことに。








はじまりの星








彼のはじまり。大海の夢。
こんな夢の後、彼は海都アーモロードに流れ着くわけです。
「選ぶ」とか言ってますが、実はルート分岐を知る以前にしかも発売前に書いたものだったり。妄想って怖い(←)
[ 10.08.06 ]


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